配偶者の浮気を許していた場合に慰謝料は請求できるか
1 はじめに
夫と喧嘩をした拍子に「あなたとはもう話したくないから,外に女を作るなり勝手にして」と言ってしまったことがある場合,本当に夫が浮気をしてしまったとしても,慰謝料を請求することは最早できないのでしょうか。
また,結婚する際に「私は縛られたくないから,異性との交際を認める書面にサインしてくれたら結婚してもいい」と言われて書面を作成している場合,慰謝料を請求することは認められないのでしょうか。
今回のコラムでは,浮気をすることを許してしまった場合の不貞慰謝料請求について,横浜シティ法律事務所の弁護士が解説いたします。
2 浮気を許した経緯があっても慰謝料は請求できる
結論から申し上げると,「あなたとはもう話したくないから,外に女を作るなり勝手にして」と言ってしまったことがある場合でも,結婚する際に「私は縛られたくないから,異性との交際を認める書面にサインしてくれたら結婚してもいい」と言われて書面を作成している場合でも,実際に不倫をしたのであれば,慰謝料を請求することは可能です。
それは,以下の理由からです。
まず,日本の法律では契約自由の原則というものがあり,どのような合意も当事者の間では原則として有効です。しかし,公の秩序または善良の風俗(公序良俗)に反する事項を目的とする合意は例外的に無効となります(民法90条)。
そして,婚姻関係というものはお互いに性的な関係を独占する関係であり,貞操を守るということは婚姻関係の本質となっています。
性的な関係を独占することが婚姻関係の本質である以上,浮気を許すような合意は公序良俗に違反して法的に無効ということになるのです。
3 慰謝料が請求できない場合もある?
浮気を認めていただけでなく,婚姻関係が完全に破綻していた等の事情があれば,慰謝料を請求できないことになります。
4 裁判例の紹介
この問題が裁判で争われた事例をひとつご紹介いたします。
東京地裁平成16年2月19日判決は,結婚前に「浮気をしてもいい」という内容の誓約書を配偶者から受け取っていたという事案に関するものです。
裁判所は,「本件誓約書は,Aが婚姻を切望する原告の弱みに付け入り交付させたものであり,原告の真意を反映したものとは解されず,その内容も,婚姻時にあらかじめ貞操義務の免除を認めさせるものであって,婚姻秩序の根幹に背馳し,その法的効力を首肯し得ないばかりか,社会的良識の埒外のものである。」と判示しました。
5 おわりに
本コラムでは,配偶者の浮気を許していた場合に慰謝料は請求できるどうかについて解説いたしました。
横浜シティ法律事務所では不貞慰謝料請求について経験豊富な弁護士が在籍しております。初回のご相談は無料でお受けしておりますので、慰謝料請求を検討中の場合や慰謝料請求を受けた場合にはまず一度ご相談ください。
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