離婚後に元配偶者の不貞が発覚。今からでも慰謝料請求はできる?
1 はじめに
不貞の発覚をきっかけに離婚をする夫婦は多いですが、中には離婚後に元配偶者の不貞が発覚するという場合もあるでしょう。
そのような場合であっても、不貞慰謝料請求はできるのでしょうか。
今回はこの疑問について、横浜シティ法律事務所の弁護士が解説いたします。
2 不法行為であることに変わりがない
結論から申し上げますと、離婚後に元配偶者の不貞が発覚した場合であっても、慰謝料請求ができる可能性があります。
なぜなら、発覚したのが離婚の前であっても後であっても、不貞をしたという事実には変わりがないからです。
もっとも、必ず慰謝料請求ができるわけではありません。
不貞行為に慰謝料が発生するのは、不貞行為によって「夫婦共同生活の平穏」を侵害したことが根拠となります。
不貞行為に及んだときに既に婚姻関係が破たんしていた場合には、保護すべき「夫婦共同生活の平穏」が存在しないため、慰謝料は発生しません。
また、離婚した後に不貞を知った場合、既に夫婦生活は終了しています。すなわち、不貞を知った時点では、侵害される「夫婦共同生活の平穏」が存在していません。そのため、離婚後に発覚した不貞行為は「夫婦共同生活の平穏」を侵害したとはいえない、という考え方もできます。
裁判例の中には、離婚後に元配偶者の不貞行為を知ったケースにおいて、離婚は不貞行為が原因ではなく、不貞行為によって夫婦共同生活の平穏が侵害されたとはいえないと判断したものもあれば(東京地裁平成24年5月8日)、不貞行為が離婚の原因になったことを認めたものもあります(東京地裁平成25年7月16日)。
不貞が実際に「夫婦共同生活の平穏」を侵害したか否かという判断は、法的評価が必要な非常に専門性の高い領域です。事案によって裁判官の判断も分かれる部分ですので、ご自身で判断されるのではなく、一度弁護士に相談されることをおすすめいたします。
3 離婚協議書に清算条項の記載が…
(1)清算条項とは
離婚をする際、協議離婚であれば離婚協議書を作成することがあります。また、調停離婚であれば調停調書(調停で合意した離婚条件を記したもの)を作成します。
そして、協議書や調停調書には「本協議書に定めるもののほか、お互いの間に債権債務は存在しないことを確認する。」といった内容の清算条項を設けることが多いです。
この清算条項というのは、協議書作成や調停成立をもって、離婚問題が全面的に解決したことをお互いに確認するものです。清算条項があると、協議書や調停調書に記載されたもの以外に金銭等を追加で請求することができなくなります。離婚協議書を作成する際には、離婚に伴う問題が後日蒸し返されることを防ぐ目的で、この清算条項を設けることが多いです。
(2)錯誤について
離婚協議書や調停調書に清算条項の記載がある場合には、原則として、後日不貞慰謝料を請求できないことになります。
もっとも、離婚時に不貞行為の存在を隠されていて知らなかったなら、清算条項があるからといって、慰謝料を請求できなくなるというのは納得いかないでしょう。
不貞行為の存在を知っていたなら、離婚協議書の作成には応じなかったという場合、「錯誤」(民法第95条)によって離婚協議書を作成したとして、離婚協議書の取消無効を主張することが考えられます。
ただし、錯誤によって離婚協議書を作成したことの証明は、錯誤の主張をする側がしなくてはなりません。この証明は容易ではなく、離婚協議書作成当時の状況を踏まえ、様々な証拠を検討する必要があります。実際に錯誤の証明が可能かどうかについては、弁護士に相談されることをおすすめいたします。
(3)不貞相手に対する請求
離婚協議書の効力は、あくまでも離婚協議書を作成した夫婦当事者間でしか効力を持たないのが原則です。調停調書も同様です。
そのため、清算条項によって、不貞相手に対する慰謝料請求が妨げられることはありません。
離婚後に元配偶者の不貞が発覚し、離婚協議書に清算条項が定められているとしても、原則として、不貞相手には慰謝料請求をすることができます。
なお、離婚した元配偶者のことなので気にしないという方が多いですが、不貞相手から慰謝料が支払われた後、不貞相手から元配偶者に対して求償権が行使されることがあります(求償権の意味については、こちらhttps://isyaryou.yokohama-lawyer.com/knowledge/knowledge-6/をご参照ください)。
先ほど述べたとおり、清算条項は夫婦間にしか効力がないため、不貞相手は元配偶者に対し、清算条項に縛られることなく求償権の行使をすることができるのです。
4 消滅時効に注意
不貞慰謝料は、いつまでも請求できるわけではありません。
民法第724条は、「損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき」もしくは「不法行為の時から二十年間行使しないとき」は、時効によって慰謝料請求権が消滅すると定めています。
損害を知った時とは、不貞の事実を知った時です。
そして加害者を知った時とは、請求が事実上可能な状況を意味し、具体的には氏名・住所を知った時とされています。
つまり、氏名・住所を知っているなら不貞の事実を知った時点、氏名・住所を知らなければ不貞の事実だけでなく氏名・住所も知った時点が3年間の時効の起算点になります(もっとも、元配偶者の氏名は当然知っているでしょう)。
また、実際に不貞があった時から20年が経過した場合には、時効によって慰謝料請求権が消滅してしまいます。
つまり、最近不貞があったことを知ったとしても離婚後20年以上経過していれば慰謝料は請求できませんし、元配偶者や不貞相手の氏名・住所がずっと分からなくても離婚後20年が経過すれば慰謝料は請求できなくなります。
5 おわりに
以上のように、離婚後に不貞の事実を知った場合には、慰謝料請求にあたって難しい法律上の問題があります。
実際に慰謝料請求が可能か否かは個別的事情によっても異なりますので、弁護士に直接ご相談いただき、ご状況を具体的にお話しいただくのがよいでしょう。
横浜シティ法律事務所では、離婚後に不貞行為が発覚した事案を含め、多種多様な不貞慰謝料請求のご相談をお受けしてきました。初回のご相談は60分無料で承っておりますので、お気軽にご相談ください。
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