子供から親の不倫相手に対して慰謝料請求はできるか
1 子供から不倫相手に慰謝料請求できるの?
昔から、不倫は家庭の平穏を壊すものとされてきました。不倫された方は、家庭の平穏が壊され精神的苦痛を受けるという形で被害を受けるため、不倫相手に対して慰謝料を請求することができるとされています。
それでは、夫婦の間に子供がいた場合はどうでしょうか。子供も不倫によって家庭の平穏を壊され、被害を受けているといえそうです。
子供は親の不倫相手に対して慰謝料請求ができるのでしょうか。
2 子供からの慰謝料請求に対する裁判所の判断
(1)子供からの慰謝料請求を認めた裁判例
東京地方裁判所昭和42年2月3日は、父親が不倫をしたケースでした。
裁判所は、親や子供が精神的平和・幸福感・愛情などを享受することは法的保護に値する重要な利益としたうえで、
「夫と不倫関係に入って、夫を親族共同生活から離脱させることによって家庭を破壊した第三者は、妻に対しては勿論のこと、未成年の子に対しても、不法行為者としての責任を負わなければならない。」
と判示して、子供から不倫相手に対する慰謝料請求を認めました。
(2)子供からの慰謝料請求を否定した裁判例
一方、子供から不倫相手に対する慰謝料請求を否定する裁判例もありました。
東京高等裁判所昭和50年12月22日は、
「訴外人が控訴人と同棲して以来子供である被控訴人春子らは訴外人の愛ぶ養育を受けられなくなつたわけであるが、これは一に訴外人の不徳に帰することであつて、控訴人に直接責任があるとすることはできない。」と判示し、子供から不倫相手に対する慰謝料請求を否定しました。
これは簡単にいうと、子供が愛情を受けられなくなったのは、不倫をした親の問題であり、不倫相手に直接責任があるわけではないということです。
(3)最高裁の判断
そうしたところ、最高裁判所第2小法廷昭和54年3月30日は重要な判断を下しました(最高裁判所の判断は、それ以後同様のケースに関して裁判所がその判断を尊重することになるため、他の裁判例に比べて非常に重要です。)。
このケースは、父親と子供のもとから母親が去り、母親が不倫相手と肉体関係を持ち同棲をした件でした。
裁判所は、子供が母親から世話をしてもらえず愛情を受けることができなくなったとしても、不倫相手が「害意をもって母親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情がない限り、右男性の行為は、未成年の子に対して不法行為を構成するものではない」として、子供の不倫相手に対する慰謝料請求を否定しました。
なお、不倫相手が子供を害する意図を持っていた場合には慰謝料請求ができる可能性はありますが、このようなケースが認められるのは例外的な場合になります(例えば不倫相手が、家族関係を悪くする意図で子供に対する嫌がらせをした場合などには認められる可能性があるでしょう)。そのため、子供の慰謝料請求は基本的にはできないと考えていただいて差し支えありません。
裁判所は、上記のような結論になった理由について、
配偶者が不倫をしていたとしても、その配偶者は自分の意思で不倫の有無とは関係なく子供に愛情を注ぐことができ、不倫と子供の被害は関係がないためと説明しています。
3 子供の存在と慰謝料請求との関係
最高裁判所が以上のような判断を示したため、原則として、子供から不倫相手に対して慰謝料請求はできません。
それでは、子供の存在は慰謝料請求に全く関係がないのでしょうか。実は、子供の存在は親がおこなう不倫慰謝料請求の金額に関係します。
4 不倫慰謝料請求の金額への影響
(1)子供の存在は親がおこなう不倫慰謝料にどのように影響するのか?
でも説明したように、
慰謝料の金額は、様々な要素を考慮して総合的に判断されます。
子供の存在はその要素の一つであり、慰謝料の増額理由にもなりますし、減額理由にもなりえます。
簡単に言ってしまうと、「夫婦に未成年の子供がいる」ことは、慰謝料の増額理由になるとされています。反対に、「夫婦に未成年の子供がいない」ことは、慰謝料の減額理由になるとされています。
(2)慰謝料の増額事由とした裁判例
東京地方裁判所判決平成28年2月16日は、「上記認定事実によれば,被告の不貞行為の継続により,原告とAとの婚姻関係は相当程度悪化し,原告とAの不和は未成熟子らにも深刻な影響を与えている。」ことを摘示し、未成年の子の存在を慰謝料算定の一事情と位置づけました。この裁判例からは未成年の子供の存在を増額理由としていることが伺われます。
(3)慰謝料の減額事由とした裁判例
東京地方裁判所判決平成21年3月27日は、夫婦間に「子がなかったこと」を摘示したうえで慰謝料額を算定しており、未成年の子供がいないことを慰謝料の減額理由としていると考えられます。
(4)小括
各事案の内容にもよりますが、以上のとおり、未成年の子供の存在は慰謝料算定の一事情として考慮されることになります。注意していただきたいのは、現実の慰謝料請求の交渉・訴訟の場合おいては、単純に子供がいるという事実を指摘するだけでは十分ではありません。未成年の子供の存在がどのように慰謝料に関係し、増額理由もしくは減額理由になるのかを説得的に主張し、併せて必要な証拠を提出することが重要になります。
5 最後に
以上のとおり、最高裁判所第2小法廷昭和54年3月30日の判断がありますので、現在では子供から不倫相手に対する慰謝料請求をすること自体は、容易ではありません。
また、不倫された方が、不倫相手に対しておこなう慰謝料請求において子供の存在を増額理由・減額理由として主張する際には、慰謝料請求について過去の裁判例などを踏まえた上で検討し、主張をしっかりと練る必要があります。
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