不倫の違約金の相場と違約金条項の有効性について
1 はじめに
不倫が発覚した場合に、配偶者と不倫相手が再び不倫や接触をした場合にその違約金を定めることがあります。このように違約金を定める場合、金額は自由に設定して問題ないのでしょうか。また、一度違約金を設定し、その後約束違反をしてしまった場合、定めた違約金の全額を支払わなければならないのでしょうか。
本コラムでは違約金の相場や有効性について横浜シティ法律事務所の弁護士が解説いたします。
2 違約金とは
そもそも違約金とは法律上どのような性質のものなのかを説明します。例えば、当事者の間でもう二度と不倫や接触をしないと約束したにも関わらずその約束に違反してしまった場合、違反をした方は債務不履行責任を負い、損害賠償を支払わなければならないこととなります(民法415条)。
もっとも債務不履行となった場合にいくらの損害賠償請求ができるかは一律に決まっているわけではなく、違反の回数や内容によって金額が変化します。しかし、そのときになって再び金額などについて協議を行うのは、手間がかかり望ましくありません。
そのため、違約金とは、あらかじめ損害賠償金額を設定し、後に約束違反が起きた場合のトラブルを解消するためのものとなります。この違約金は民法上、損害賠償の予定(民法420条1項、3項)と呼ばれています。
3 違約金の金額は原則として自由
まず、民法では契約自由の原則というものがあります。そのため当事者間で決めた約束についてはその内容が基本的には尊重され、原則として有効となります。
もっとも、定めた金額があまりにも高額な場合などには公序良俗違反(民法90条)を理由に一定額を超えた金額が無効と判断されることがあります。違約金に関する裁判例については次のようなものがあります。
4 違約金に関する裁判例
(1)再度の不貞行為の違約金の場合
ア 500万円の違約金を有効とした事例
平成29年9月27日東京地裁判決は再度不貞をした場合の違約金として500万円を設定した事案で、「1回の不貞に関する慰謝料額としてはいささか高額であることは否めない」と述べ、本来認められる慰謝料金額より高額であることを認めながら、違約金条項は有効と判断しました。
イ 5000万円の違約金条項に関し、1000万円を限度に有効とした事例
平成17年11月17日東京地裁判決は、不貞行為の違約金として5000万円という高額の違約金を定めたことにつき、「相当と認められる金額を超える支払いを約束した部分は無効」としながら、5000万円の金額を不倫相手自らが提示したこと、不倫相手に資力があること、不貞の態様が悪質であることなどを理由に1000万円の範囲で違約金の定めは有効であると判断しました。
もっとも、このケースは5000万円の違約金を定めた経緯が通常のケースとは大きく異なるため、他のケースに必ずしも当てはまるわけではありません。
(2)連絡禁止の違約金の場合
平成25年12月4日東京地裁判決は、面会・連絡禁止の違約金として1000万円を定めた事案につき、面会・連絡等禁止条項に違反して面会したり電話やメール等で連絡をとったりした場合の損害賠償(慰謝料)額は、その態様が悪質であってもせいぜい50万円ないし100万円程度であると考えられるから、履行確保の目的が大きいことを最大限考慮しても、少なくとも150万円を超える部分は著しく合理性を欠き無効であると判断し、150万円の範囲で違約金条項を有効と判断しました。
5 裁判例の判断について
以上のとおり、違約金についてはあまりに高額な金額を定めた場合、その一部が無効と判断されることがあります。また、違約金がいくらであれば有効かということは、違約金を定めたときの経緯や違反の態様などによっても変わってくるため、一律に判断できるものではありません。
もっとも、裁判例は、一度定めた違約金が著しく不合理でない限り、当事者の合意を有効としていますので、あらかじめ違約金を定めることで通常認められる金額を超えた金額を獲得することも可能となります。
6 違約金を定める目的
裁判で通常認められる金額を超えた違約金を設定することも可能という意味では、違約金条項は不貞をされた側にとって有利な側面があります(他方、通常認められる程度の違約金よりも低い金額の違約金を設定した場合には不貞をした側に有利な取り決めといえます)。
しかし、違約金を定める目的は、一般的には、裁判で認められる損害賠償額よりも高い金額を獲得しようという目的ではなく、違約金を定めることによって約束をしっかり遵守してもらうという目的や、万が一約束違反があった場合の損害賠償額で後々揉めないようにする目的が主たるものでしょう。
万が一約束違反があった場合に損害賠償額で再び揉めることがないという点で、違約金を設定しておくことは、不貞をした側・不貞をされた側の双方にとってメリットがあるといえます。
7 違約金を請求されたら
違約金の相場や違約金条項の有効性等に関して解説をさせていただきました。もっとも、既に述べてきたように、いくらまでの違約金であれば有効かどうかは個別のケースによって異なるため、その判断は非常に難しいと言えます。
そこで、違約金を請求された場合には、その金額を払わなければならないのかどうかの判断のために一度弁護士に相談されることをおすすめいたします。
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