事実婚の夫・妻が不倫をしたとき、慰謝料はとれるの?
1.はじめに
近年、事実婚がますます増加しています。2010年の国勢調査においては、事実婚の件数は約60万件という数字が出ており、その数はさらに増加傾向にあります。
このように事実婚が増加する中で、事実婚という状態が婚姻した夫婦同様に保護されるのかが問題となっています。婚姻をした夫婦の場合には,配偶者が不貞をした場合に慰謝料請求が可能ですが、これは事実婚の場合にも当てはまるのでしょうか。
2.内縁ってなに?
(1)慰謝料が認められる可能性はある!
実は、あなたとパートナーが結婚していない場合でも、あなたとパートナーとの間に内縁関係が認められる場合には、不倫をしたパートナーや不倫相手に対する慰謝料請求が認められる可能性があります。
(2)内縁とは
それでは、そもそも内縁とはなんでしょうか。
簡単に言うと、内縁とは、婚姻届を出してはいないものの、結婚をしている場合と同様の関係があることです。
この内縁関係が認められるためには、
①社会一般で考えられているような夫婦生活を送る意思(これを婚姻意思といいます)を持っていること、
②客観的にみても夫婦生活と認められるような共同生活を送っているという事実があること、
の2つが必要とされています(東京地裁昭和49年7月16日判決など)。
なお、今回の記事のメインテーマからは外れますが、内縁が認められると、財産分与請求権(民法768条)が類推適用されるなど、慰謝料請求以外の場面でも、様々な法的効果が認められることになります。
(3)具体的にどのような場合に内縁が認められるの?
具体的にどのような場合に①②が認められるかですが、その男女間の経歴、生活状態、同居期間、第三者の認識などを含め、様々な事情を総合考慮して判断されることになります。
例えば、新婚旅行に行った、結納をおこなった・結婚式を挙げたなどの各種婚姻儀礼があった、同居しており同居期間が長期にわたっている、継続的な肉体関係がある、子供が誕生し一緒に育てている、などの事情があれば、①②は認められやすくなります。
一方で、各種婚姻儀礼が行われていない、同居をしていないもしくは同居していても同居期間が短い、家計が別になっている、などの事情がある場合には、ただの交際関係などと判断され、内縁関係が認められない可能性が出てきます。
それでは、具体的な裁判例で内縁が認められたケース、認められなかったケースを見ていきましょう。
(4)内縁が認められた裁判例
東京地方裁判所判決平成16年8月25日は、同居をしていた男女間で暴力が振るわれ最終的に関係を解消したことについて、原告女性が被告男性に慰謝料を請求した事案でした。この事案では、慰謝料を求める前提として、内縁関係の存在が争われました。
裁判所は、「①被告は婚姻の申込みを行い,原告はこれを承諾し,②これに基づく同居生活が3年以上継続していること,③原被告は同居先のマンションに住民票上の住所を移しているばかりか,④同居生活の間も宿泊付きの旅行に行ったり,⑤原告の実家の墓参りをしたり,⑥原告の前夫との間の娘に面会するなどしている」などと指摘し、①〜⑥などの要素を踏まえ、内縁関係があることを認定しました。(注:①〜⑥は筆者によるナンバリングです。)
③で挙げられている同居期間は重要な要素ですが、この裁判例では、相手の実家の墓参りをしているなどの事情も加味した上で内縁関係が認められました。
(5)内縁が認められなかった裁判例
最高裁判所第一小法廷判決平成16年11月18日は、「パートナーシップ関係」にあった男女間において、その関係を不当破棄した場合の不法行為責任が争われました。
裁判所は、二人の関係が16年に及ぶ関係であることや2人の子供が生まれたことを指摘しつつも、同居をしていなかったこと、財産関係が別々であったこと、両者が意図的に婚姻関係を回避していた事実があったことなどを踏まえ、「上告人と被上告人との間の上記関係については,婚姻及びこれに準ずるものと同様の存続の保障を認める余地がない」として、内縁関係の存在を否定しました。
この裁判例によると、単純に交際期間が長いだけでは足りず、その他の事情次第では内縁関係が認められない場合があるといえます。
3.内縁と不倫について
(1)不倫をしたパートナーに対する慰謝料請求
内縁関係が認められた場合、その男女間には、民法上の貞操義務が課されることになります。そのため、パートナーが不倫をした場合には、そのパートナーに対して慰謝料請求をすることができる可能性が出てきます。
現実的には、パートナーが不倫をおこない、内縁関係を破棄した場合などに紛争になる事が多いようです。
例えば、東京地方裁判所判決昭和62年3月25日は、原告男性の内縁の妻が別の男性と不倫をし、内縁関係が解消に至った件でした。裁判所は、この事例に関して、内縁の妻と、不倫相手の男性に対して、各自が200万円を原告に支払うべきことを判示しました。
(2)パートナーと不倫をした第三者に対する慰謝料請求
ア 第三者に対する慰謝料請求を認めた事例
東京地方裁判所判決平成18年11月2日は、原告が、被告が原告の内縁の妻と肉体関係を持った件に関して、第三者である被告に対する慰謝料請求を認めました。ただし、この件では、原告が内縁の妻と仲直りをしている事情なども踏まえ、認められた慰謝料額は80万円と低い額に抑えられました。
イ 第三者に対する慰謝料請求を認めなかった事例
一方で、東京地方裁判所判決平成15年8月27日は、原告とパートナーとの間の内縁関係の存在は認めつつも、不倫相手に対する慰謝料請求を認めませんでした。
裁判所はその理由について、被告である不倫相手は、原告とそのパートナーが「同居していること、ましてや内縁関係にあることは知らず、ただ単に交際している女性がいるという認識しかなかった」などとして、不倫相手に故意過失が無かったと判断しました。
結婚をしている場合には結婚指輪をするなど、不倫相手が男女間に婚姻関係があることを容易に把握できる機会も多いと考えられます。一方で、内縁関係の場合には、不倫相手はその男女間に内縁関係があることを把握することは容易ではありません。
そのため、内縁の場合には、不倫相手の故意過失が認められにくく、慰謝料が認められにくいと言われています。
4.小括
以上のとおり、あなたがパートナーと結婚をしていない場合でも、あなたとパートナーとの間に内縁関係があった場合には、パートナーや不倫相手に対して慰謝料を請求することができる場合があります。ただし、一般論としては婚姻をしている場合に比べると、慰謝料が認められにくいと言えます。
なお、内縁が成立していない場合においても、婚姻予約を不当に破棄した場合などには、別途慰謝料請求の対象になる場合がありますので、その点は注意が必要です。
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