慰謝料を支払わない場合,どうなるの?
1 はじめに
不貞行為が発覚し,慰謝料の支払いを内容とする示談書を締結した場合,請求者側(債権者)であれば,もし約束どおり支払われなければどうしたらよいかは気になる問題です。
また,請求を受けた側(債務者)であれば,慰謝料を支払わないとどうなるか,不安な点があるかと思います。
今回のコラムでは,慰謝料を支払わないとどうなるかについて,主に強制執行に関することを,横浜シティ法律事務所の弁護士が解説いたします。
※慰謝料を支払われなかった場合の遅延損害金については,こちらのコラムをご参照ください。
2 裁判外で示談をした場合
(1)公正証書がない場合
裁判外での示談の場合,慰謝料が約束どおり支払われなかったとしても,いきなり強制執行をすることはできません。
強制執行は強力な方法であるため,それを実行するためには,まず裁判をして,判決等(債務名義といいます。)をもらう必要があります。
そして,示談書の内容に問題がなければ,裁判所は,基本的に示談書の内容に従って,示談書に定められた慰謝料から既に支払われた分を除いた金額を支払うよう,債務者に命じます(なお,遅延損害金があればそれを加えた金額の支払いが命じられることになります。)。
こうして判決等を得て初めて,債権者は強制執行をすることができます。
(2)公正証書がある場合
上記(1)のとおり,通常,裁判所から判決等を得て初めて強制執行をすることができるようになるわけですが,裁判を起こして裁判所から判決等をもらうには,労力がかかります。
実は,この裁判を起こすという手続きを省くことができるよう,事前に準備できる方法があります。それは,強制執行認諾約款付公正証書を作成することです。
示談書を公正証書にした場合,裁判を省いて強制執行をかけることができます。
慰謝料を請求する側としては,公正証書があると安心です。また,慰謝料を支払う側としても,公正証書を作成することで,今後しっかり慰謝料を支払っていくという誠意を見せることができます。
強制執行をするときには公正証書正本が必要になりますから,しっかりと保管しておきましょう。また,実際に強制執行をする際には,送達証明書と執行文の付与が必要になりますので,その申請が事前に必要です。
なお,相手方の名字が変わっている場合には,戸籍が必要になります。また,住所が変わっている場合には,送達のために現住所の調査が必要になります。こうした調査は弁護士でないと難しい場合もあります。
※公正証書については,こちらのページもご参照ください。
3 裁判をした場合(判決をもらうか,和解をした場合)
(1)判決をもらった場合
判決を出れば支払う人が多いですが,それでも中には支払わない人もいます。
しかし,支払わないからといって,無理矢理相手の家に押しかけて現金を持ち出したりしていいわけではありません。判決が出ているとしても,そのようなことをすれば,窃盗や強盗の罪に問われてしまいます。
相手方が任意に支払わない場合は,判決書をもって強制執行手続を行い,裁判所から強制的に回収してもらうしかありません。
(2)裁判で和解をした場合
和解調書も判決と同じく強い効力を持ち,それをもって強制執行をすることが可能です。
ただし,和解の場合には,お互いが納得して金額や支払方法を決めるわけですから,判決と比較して,任意に支払われることが多いです。
4 口頭での約束しかない場合
口頭での約束しかない場合,言った言わないの話になり,逃げられてしまう可能性が高いです。
この場合,口頭の約束だけで済ませず,まず示談書を作成し,お互いに署名押印することをおすすめいたします。
5 何もせずに放置が続くとどうなるのか
裁判外で示談した場合は3年間で時効となってしまいます。
裁判で判決をもらった場合や,裁判上の和解をした場合には10年間で時効となります。
時効に関する詳細については,こちらのコラムをご参照ください。
6 おわりに
以上のように,慰謝料を支払う約束をしたのに支払わないという場合には,最終的には裁判所の強制執行手続に移行してしまいます。
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