2020年民法改正と慰謝料請求の時効
1 はじめに
2020年4月1日に民法の大改正がありました。
時効についても大きな変更がありましたので,不倫の慰謝料請求権の消滅時効について,どのような変更があったのか,横浜シティ法律事務所の弁護士が解説いたします。
※時効には種類があるのですが,本コラムでは,不倫慰謝料請求の消滅時効について解説いたします。以下で「時効」と記載されているものは,全て消滅時効のことです。
2 時効とは?
そもそも時効とは何かという点をまずお話いたします。
時効とは,一定期間権利を行使しないと,権利が消滅してしまうという法律上の制度です。
ただし,時間がたてば自動的に消滅してしまうわけではなく,支払義務者の方から「援用」という手続きをする必要があります。
時効の援用をしたいという方は,弁護士に依頼して内容証明郵便を送付されるとよいでしょう。
3 2020年民法改正
一番気になる点は,結局何年放っておいたら慰謝料請求ができなくなってしまうのか,という点かと思います。
結論から言うと,2020年の民法改正後も,「不倫の事実を知った時から3年間何もしなければ時効にかかる」という点は変わりません。
民法改正によって,人の生命または身体を害する不法行為については5年間の消滅時効となりましたが,不倫は精神的苦痛であるため,この対象とはなりません。
しかし,民法改正による変更点もあります。それは「20年の時効」です。
以下では,まず3年の時効と20年の時効の2つがあるのはどういうことなのかを説明した上で,何が変わったのかについても,説明いたします。
4 3年の時効と20年の時効
(1)3年の時効
まず,3年の時効についてですが,上記のとおり,不倫の事実を知った時から3年間何もしなければ時効にかかります(改正民法724条1項)。
なお,不倫相手に慰謝料を請求する場合,不倫の事実だけではなく,その不倫相手が誰かということも知った時から3年,ということになります。
(2)20年の時効
不倫があってから,20年間何もしなかった場合も時効にかかります(改正民法724条2項)。
つまり,不倫の事実が発覚しないまま20年間たてば,時効ということです。たとえば,不倫が終わってから20年以上たって初めて不倫の事実を知ったとしても,既に時効ということです。不倫を知ったのが最近であっても時効になります。
(3)何が違うのか
3年の時効と20年の時効の違いは,前者が「不倫の事実を知った時」から時効期間のカウントがスタートするのに対し,後者は「不倫をいつ知ったかは関係なく,不倫が終わった時」から時効期間のカウントがスタートするという点です。
5 2020年民法改正により20年の時効について何が変わったのか
2020年の民法改正前は,20年の時効ではなく,20年の除斥期間と解釈されていました。
時効と除斥期間は何が違うかというのは少々難しい話なのですが,たとえば,時効を成立させるには「援用」という手続きが必要になるのに対し,除斥期間の場合は援用が必要なく,20年たてば問答無用で権利が行使できなくなります。
6 時効は止めることができる
まもなく時効が成立してしまうというときには,慰謝料請求訴訟等を提起すれば,時効を止めることができます(改正前は時効の中断と呼ばれておりましたが,改正後は時効の完成猶予と更新となりました)。
民法の条文(150条1項)を見ると,催告をすれば時効が完成しないと書かれているため,口頭で請求したり,普通郵便で請求書を送付したりすれば十分なのか?という質問を受けることがあります。しかし,実はそれだけでは駄目で,内容証明郵便で催告をした上で,6ヶ月以内に裁判をする必要があります。
もうすぐ3年が経過してしまうという方は一刻も早く弁護士に相談されることをおすすめいたします。
7 慰謝料を配偶者に請求する場合と不倫相手に請求する場合の違い
不倫相手に慰謝料を請求する場合,不倫相手が誰かがわかってから3年たつと,原則として,時効になってしまいます。
他方,不倫が原因で離婚した場合,不倫が発覚してから3年以上たっていても,配偶者に慰謝料を請求することができる場合があります。この場合は,離婚成立時点を時効期間のカウントのスタートとすることができるからです。
ただし,この場合,時効とは別に,不倫と離婚との因果関係という点が問題になることがあります。言い換えれば,不倫の新鮮さのようなものです。たとえば不倫が発覚してから5年後に離婚した場合,その離婚の原因が果たして5年前の不倫にあるのかという点が問題になります。不倫が発覚して5年間普通に生活していたのであれば,離婚の原因は他にあるということも多いでしょう。不倫の責任を追及できないわけではないものの,時間がたてば追及しにくくなります。
8 示談した場合の時効
示談をした場合でも,時効にかかってしまうことがあります。
たとえば,2020年10月に示談書を交わし,2020年12月を慰謝料の支払期限と定めた場合,2020年12月から3年間支払われないまま放っておくと時効になってしまいます。公正証書を作成した場合も同様です。
これに対し,裁判で判決が出たり,調停や裁判で和解した場合には,3年間ではなく,10年間となります(改正民法169条)。
示談をしたのに支払ってもらえないという場合にも,弁護士に依頼して訴訟を提起するなどし,時効になってしまわないように注意する必要があります。
9 おわりに
時効は何年で成立するのかという点だけではなく,いつから時効期間のカウントがスタートするのかや,時効の更新や完成猶予があるのかなど,難しい問題があります。
慰謝料請求権の時効について気になる方は,不倫問題に詳しい弁護士にお気軽にご相談ください。
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