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同性カップルと慰謝料請求

1.同性カップルと結婚

2015年、アメリカの連邦最高裁判所は、同性婚を認めるという歴史的な判断を下しました。それまでは同性婚を認めるか認めないかの判断は州によりまちまちでしたが、この判決をもって、全米で同性婚ができるようになりました。

この画期的な判決の影響もあり、以後、アメリカでは数十万人もの同性カップルが誕生し、現在もその数は増えているようです。

 

一方、日本では、同性のカップルが結婚することは法律上認められていません。LGBTという概念が広がり、社会常識も徐々に変化してきていますので、今後、日本の法制度も変わる可能性はありますが、異性同士のカップルと同性同士のカップルとの間には差があるのが現状です。

 

2.同性カップルと慰謝料請求

皆さんも御存知のとおり、既婚者が不倫をした場合、不倫された妻・夫は、不倫をした夫・妻に対して、慰謝料を請求できます。

それでは、このような問題は、同性カップルの場合はどうなるでしょうか。同性カップルの片方が不倫などをした場合、慰謝料は発生するのでしょうか。

 

3.裁判例の紹介

(1)事案の概要

宇都宮地方裁判所真岡支部令和元年9月18日判決は、ある女性が(以下では「X」と表記します。)、パートナーの女性(以下では、「Y」と表記します。)の不貞行為がきっかけとなり二人の関係が破綻したと主張し、慰謝料を求めた件でした。この件で、裁判所はXのYに対する損害賠償請求を認めました。以下では、本件の詳しい事実関係や裁判所の判断を紹介します。

 

(2)事実関係

ア XとYの関係

XとYは、双方とも女性です。二人は、平成21年1月頃にレズビアンを対象にしたクラブのイベントで知り合い、同年3月に交際を開始しました。平成22年3月からは同居を開始するようになり、平成26年3月頃には両者の家族にカミングアウトをした上で、お互いをパートナーとして紹介しました。

その後、二人は、アメリカのニューヨークで婚姻登録証明書を取得し、平成26年から平成27年にかけてアメリカと日本において結婚式を執り行いました。

Yが子供を持つことを希望していたため、XとYは、話し合いの結果、Yが男性であるZから精子提供を受け妊娠・出産をし、XとYで育てていくことを決めました。

以上のように、平成21年から平成27年ころにかけて、XとYは紆余曲折もあったものの、関係を育み、順調に過ごしていました。

 

イ Yの不貞行為

平成28年12月末、Yは医療機関を利用するのではなくZ本人からシリンジ法による精子提供を受けることに挑戦することを考え、Z宅を訪れ、その後、Z宅のアパートに滞在しました。

年が明けた平成29年1月3日に、YはXのもとに帰宅しました。YはXに対し、Zに好意を抱いていることを告げたため、XYZは三人で話し合いをすることになりました。

その話し合いの中で、ZはYとの間でペッティング(挿入を除いた性行為)をおこなったことを認めました。

 

ウ その後の関係

XYZの話し合いのあと、XとYは、YがZに連絡を取らないことを約束し、同居を継続することにしました。しかし、その後、結局YはZを選ぶこととなり、YはXとの同居を解消し、二人は別居を開始しました。

 

(3)裁判所の判断

以上のような事実関係のもと、XはYに対して、Yの不貞行為によって、XY間の同性の事実婚(内縁関係)が破綻したとして、損害賠償を請求しました。この請求について、裁判所は以下のような判断をしました。

ア 同性のカップルの関係が法的保護の対象となるか

まず大前提として、損害賠償請求をするには、法的保護の対象となる何らかの権利・利益があることが必要になります。結婚をしている場合はもちろんですが、結婚をしていない場合でも、男女間に内縁関係などの関係が認められる場合、その関係は法的保護に値する権利・利益と考えられています。裁判所は、男女間のカップルではなく、同性間のカップルの関係についても、

①同性のカップル間の婚姻を認める国もあり、日本においても同性カップルの公的認証制度(筆者注:これは結婚とは別の制度です)が存在するなど、世間の価値観等が変化しており、同性のカップルであってもその実態に応じて一定の法的保護を与える必要性があること、

②日本国憲法24条1項は「婚姻は、両性の合意に基づいて成立し」と規定しているが、あくまで憲法制定時に同性婚が想定されていなかっただけであり、完全に同性婚を否定する趣旨ではないこと、

などの理由から、「同性のカップルであっても,その実態を見て内縁関係と同視できる生活関係にあると認められるものについては,それぞれに内縁関係に準じた法的保護に値する利益が認められ」るとして、一定の場合には法的保護に値する場合があるとしました。

 

イ XとYが法的保護に値する生活関係を築いていたか

そのうえで、裁判所は、

①XとYが7年間も同棲生活を送っていたこと、

②ニューヨークで婚姻登録証明書を取得し、結婚式などもおこなったこと、

③二人で子供を育てていく約束をし、そのために行動していたこと、

などの事情から、二人の関係は「男女間の婚姻と何ら変わらない実態を有しているということができ、内縁関係と同視できる生活関係にあった」として、二人の関係を法的保護に値する関係と判断しました。

 

ウ 慰謝料請求の成否

裁判所は上記のようにXとYの関係について、男女間の婚姻と何ら変わらない実態を有しているとし、そのうえで、YがZとの間でおこなった行為により、内縁関係に準じて認められるXの利益が侵害されたとして、不法行為の成立を認めました。

最終的にYはXに対して100万円を支払うように命じられました。

 

4.まとめ

以上のとおり、現在、日本では同性のカップルは結婚をすることはできません。しかし、事情によっては、異性同士のカップルと同じように、不貞行為やそれに準ずる行為を原因としてその関係が破壊された場合には、慰謝料を支払う義務が発生する場合があります。

 

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